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ぶっちー、

むくり。
久しぶり。

しばらく会ってないけど元気?
結婚式に向けてのダイエットは順調?
俺は最近、料理をしたり映画を観たり、
健康で文化的な最低限度の生活をしているよ。

この前、生まれてはじめてチーズケーキを作ったのね。

30歳男、人生初のチーズケーキ作り。
というか、人生初のケーキ作り。
もっと言うと、人生初のお菓子作り。
なかなかエキサイティングな経験だったよ。

まず「チーズケーキってどうやって作るんだろ?」って思って、Googleでレシピ調べたのね。
で、1ページ目に出てきたクックパッドの適当なレシピ開いたら、チーズケーキ完成までの工程が全27ステップもあったのよ。

その時点で俺、早くも心が折れかけたのね。

なぜだ、なぜなんだ。
なぜチーズケーキを作るのに、27もの工程が必要なんだ。
27もの作業を正しい順序で正しくこなさないとチーズケーキは作れないのか?
この前作ったチキンソテーのレシピは僅か5ステップだったぞ。
チーズケーキを作るのにはチキンソテーの5倍以上の労力を要するのか?
そんなの無理だ。
そもそもチーズケーキを作るのは、そんなに大変なのか?
このレシピの書き手はきっと敢えて工程を増やし、 レシピをわざと複雑なものにしている。
きっとそうだ、そうとしか思えない。
そもそも、何でこんな面倒臭いレシピが検索の1ページ目に出てくるんだ。
過去にチーズケーキを作ろうと考えた人間たちの多くが、 この27もの工程を要する複雑難解なレシピを気に入り高い評価を与えているというのか?
なぜだ、なぜなんだ。
同じチーズケーキを作るなら、レシピは簡単でシンプルな方がいい、違うのか?
いや、むしろ世の中では逆なのか?
料理は手間をかければかけるほどいい、そういうスタンスなのか?
歪んでる、そんな考え方は歪んでる。
たとえこのレシピに従い美味しいチーズケーキができるのだとしても、俺はこのレシピを認めない。
今はじめてチーズケーキを作ろうと思い立った人間の意思を打ち砕くようなレシピに果たして、どれほどの価値があるというのか?
いや、むしろこの複雑難解なレシピは、俺みたいな人間にはチーズケーキを作る資格がないということを示唆しているのか?
これはあれか?チーズケーキ差別か?
チーズケーキを作れる人間と、作れない人間の間に横たわる深い溝。
レシピ通りにコツコツ作業ができる人間と、できない人間の間に立ちはだかる高い壁。
壁の向こう側で俺と相容れない人間たちが楽しそうにチーズケーキを作りながら、こちらを見下ろして笑っている。
ちくしょう、ちくしょう……

てな感じでさ、作る前から心にダメージを負ったんだけど、気を取り直して作りはじめたのね。
ちなみにレシピは他に調べたら全10工程のやつがあったから、それ参考にした。

まず、レシピに書かれてる材料を買い出しにスーパー行って、 家に帰ってキッチンに材料を並べてみたのよ。





クリームチーズ、バター、卵、レモン、生クリーム、砂糖、薄力粉、ビスケット。

こうして見ると、なかなか強力なラインナップだよな。
そりゃチーズケーキが美味しいわけだ、って思ったよ。
このメンツから一体、どうやったら不味いものができるっていうのさ?
まるで黄金時代のヤンキースみたいな豪華ラインナップじゃないか。
1番ショート、クリームチーズ。
2番センター、バター。
3番ライト、卵。
生クリームからビスケットまで、何をどう混ぜたって美味くなる気しかしない。
もはやこの際、チーズケーキにならなくたっていい気がする。
何も考えずにこれらの材料をごちゃ混ぜにしただけで、十分に美味しいんじゃないか?
いや、むしろ何ひとつ混ぜずに、ひとつひとつの材料をそのまま食べるのが一番、素材の味を楽しめるかもしれない。
クリームチーズをかじって生クリームを舐めて、 バターを舌の上で溶かしてマリービスケットを頬張って……

ん、待てよ。

だとすると俺は一体、何のためにチーズケーキを作るんだ?
材料そのままでも美味しいのに、なぜ巷では27工程も要するとされるチーズケーキなるものを、わざわざ手間暇かけて作るんだ?
ああ、いよいよチーズケーキを作る意味がわからなくなってきた。
そもそも俺はなぜ、チーズケーキを作りたかったのだろうか?
チーズケーキが食べたかったから?そのはずだ。
しかし俺は、本当に心の底からチーズケーキが食べたかったのだろうか?
チーズケーキが食べたいのなら、近所のケーキ屋にでも行って買ってくればいい。
俺はチーズケーキを食べたかったのではなく、チーズケーキを作りたかったのではないだろうか?
つまり俺は、チーズケーキを食べるためにチーズケーキを作るのではなく、
チーズケーキを作るという行為そのものを目的にしていたのではないだろうか?
敢えてゼロからチーズケーキを作ってみる、その作業そのものに、
クリエイティブな何かを見出したのではないだろうか?
だとすると、さっきの全27ステップのレシピが高い評価を受けている意味も理解できる。
チーズケーキ完成までの道程が困難であればあるほど、完成したときの達成感は膨れ上がるからだ。
俺は手っ取り早くチーズケーキを食べることではなく、敢えて苦労して自らの手でチーズケーキを作ることを選択した。
にも関わらず、複雑難解なレシピを目の前にして、こんなの無理だと逃げ出した。
敢えて手間をかけてチーズケーキを作るのに、手間をかかる面倒なレシピを避けた。
これは、あまりに矛盾していないだろうか?
こんな中途半端な人間に果たして、チーズケーキを作る資格などあるのだろうか?

いや、ある。

何を隠そう、俺はクリエイターだ。
クリエイターとは即ち、作り手だ。
作り手たるもの、チーズケーキのひとつくらい作れなくてどうする。
チーズケーキを作ることくらい朝飯前、a piece of cakeでなければならない。
チーズケーキも作れない人間に果たして、クリエイターを名乗る資格などあるのだろうか?

否、ない。

俺は真のクリエイターになるために、チーズケーキを作るのだ。
で、まずはチーズケーキの土台から作りはじめたのね。




ビスケットを粉々に砕いて、溶かしバターと混ぜる。

俺はこれまでの人生で、一度でもビスケットを砕いたことがあっただろうか?
多分、ない気がする。
そもそも既にお菓子として完成しているビスケットを破壊するという発想がなかった。
でも、誰かが言ってた気がする。
「創造とは破壊である」と。
スティーブ・ジョブズかイーロン・マスクか、岡本太郎だったかもしれない。
ビスケットを破壊した先に、チーズケーキが創造されるのだ。




土台を冷蔵庫にしまって、いよいよチーズケーキのメインパートを作っていく。

まず、レシピに従いクリームチーズ200gと砂糖70gをボウルに投入。
それから、70gもの砂糖を投入した事実を「なかったこと」にするかの如く、一心不乱にかき混ぜる。
もし誰かに何か突っ込まれたら「ただちに影響はない」と言い張る。
そして、さらなるアリバイ工作として卵2つと生クリーム、薄力粉を次々に投入する。
こうして砂糖の姿はおろか、一体何が何だかわからない不穏な液体が完成。




そしてここで、先ほど作った土台を冷蔵庫から取り出す。




いい感じだ。
土台感ある。

ここに、先ほどのわけのわからない液体を流し込む。




いい感じだ。
チーズケーキ感出てきた。
そしてこいつをオーブンレンジに入れて、170度で45分焼いたら出来上がり、と。

ん、あれ?

もう完成?
チーズケーキ、結構簡単じゃね?
こんなもん?こんなもんなの?
あの全27ステップのレシピは何だったの?
詐欺?詐欺なの?
チーズケーキ作るの難しい難しい詐欺?
おい、クックパッド。
詐欺商法はやめたまえ。
わざと難しいレシピを掲載して人々の創造意欲を掻き立てて、それを食い物にするような真似はやめたまえ。
食い物をネタに人間を食い物にするような真似はやめたまえ。
サイト上の全レシピには、レシピの難易度を5段階評価で記載したまえ。
単に工程の数が多いだけで実は簡単なレシピには「難易度2」とつけたまえ。
最初にレシピを見て打ちのめされた俺の精神的苦痛をどうしてくれる。
ちくしょう、ちくしょう……

てな感じでさ、焼き上がりを待っている間ふと、あるシーンを思い出したのよ。

それは今から約10年前、俺たちがまだICU生だった頃のこと。
とある日、俺は某AKさんと一緒にバカ山に座って日向ぼっこをしていました。

俺たちは確か、誰かが作ってきてくれたチーズケーキを食べてたのね。
俺は「美味い美味い」って言って食べてたんだけどさ、隣でAKさんが一言、言ったのよ。

「まあ、チーズケーキなんて誰が作っても美味しくなりますからね」

たぶん、たぶんね、AKさんは何の悪意もなかったんだと思う。
思うというか、俺はそう信じている。
いや、信じたかった。
信じたかったけど、俺の体は震えていた。
AKさん、おっしゃることはわかります。
わかりますけど、わかりますけど!
そんなの、あんまりじゃないですか!
チーズケーキは美味しい、確かに美味しいです!
この世に美味しくないチーズケーキがあるのなら、逆に食べてみたいほどです!
とはいえAKさん!あなたという人は!
誰かが僕らのために作ってくれたチーズケーキは、この世のその他多くの名もなきチーズケーキたちの100倍美味しい!違いますか?!
確かに僕のこの考えは、極めて非科学的であり、青臭いものかもしれません!
論理的に考えたら、あなたの言うことは確かに正しい!
でも、そんなのあんまりだ!
僕は今日、生まれて初めてチーズケーキを作ってみました!
そして今日、わかりました!
チーズケーキなんて誰が作っても美味しい、その通りです!
クリームチーズと砂糖と生クリームとその他諸々を混ぜ合わせて焼いて、美味しくないわけがありません!
AKさん、あなたが言ってたことは正しい!
僕が間違っていました!
チーズケーキなんて誰が作っても美味しい、その通りです!
今思うと僕は、そのことを実証するために今日、チーズケーキを作ったのかもしません!
10年前のあなたが言ったことの正しさを、この手で証明するために!
AKさん!聞こえてますか?!
AKさん!AKさん……!

てな感じでさ、脳内が10年前にフラッシュバックしている間に、人生初のチーズケーキが完成しました。
アラサー女子二人に食べてもらったところ「美味しい」と言ってもらえたよ。
まあ、この世に美味しくないチーズケーキなんて存在しないんだけどね。
ちなみに完成後は食べるのに夢中になっちゃって、肝心の出来上がり写真撮るのを忘れました。

またいつの日か作る機会があったら、ぶっちーにも食べてもらうね。

2017.07.04
ハル